2024年4月から、時間外労働の上限規制と健康確保措置の適用が始まり、医師の過重労働の緩和が謳われています。しかし、現在医療界で起きているのは、いかにこの規制を掻い潜ろうかという「悪知恵」をめぐらす医療機関の幹部たちの醜い姿です。
宿日直許可の悪用、「自己研鑽」の拡大…。その背後には、人の命を守る医師は自らのことなど犠牲にすべきという医師が持つ職業観があります。後進を指導する立場のシニア世代の医師たちは、たとえば若手医師たちが美容外科医になろうとする傾向を批判し、甘えだと断じます。確かに、震災の被災地や紛争地など極限の状況で、どうしてもやらなければならない状況はありうるでしょう。
しかし、病院幹部のそうした歪んだ指導を正当化した結果は何でしょうか。「責任感」ある若手医師の過労自死です。兵庫県神戸市の甲南医療センターで起きた悲しい事件は、逃げるな、闘えというばかりの病院幹部の精神論が引き起こしたと言っても過言ではありません。
そして、私生活を全て犠牲にすることが当然であるという考えが、女性や障害を持った医師、子育てや介護に関わる医師などを切り捨ててしまい、医師不足を加速させています。
働き方改革から背を向け、小手先だけの悪知恵でなんとかやりすごそうとするその先には、人々の健康を守ることさえできない焼け野原のような医療崩壊が確実に待っています。
今こそ、私たちは、医療界が抱えてきた倫理観や慣習を棚卸しし、医師、そして人々のための真の働き方改革に着手しなければなりません。
勤務医を中心とした現場で働く医師に私たちから呼びかけます。働き方改革に背を向ける施設から立ち去り、より良い環境の施設に堂々と異動してください。人が集まらないことで、病院幹部に改革へのプレッシャーをかけることができます。働き方改革に背を向ける病院を淘汰すべきなのです。
病院幹部に呼びかけます。働き方改革に正面から取り組むことは、人を呼び込み、医療の質を高めます。病院経営にとってプラスになります。確かに現在の病院経営を取り巻く状況は、「キレイゴト」だけでは決して済まされないことを重々承知しています。しかし、医師を使い潰した先には何も残らないことに薄々気がついていることでしょう。ぜひ未来のために種を巻いてください。
医療関係者ではない方々に呼びかけます。医師の働き方改革は、地域の未来と密接に関わっています。確かに近所に医師がいて、いつでも対応してくれる環境は理想です。しかし、医師不足の現状では、全国津々浦々でその理想は叶いません。病院の統合など、住民のみなさんにとっては辛い解決策もあります。ですが、小さな病院に医師を分散し、交代要員も無く、休み無く働かな蹴ればならない現状で、疲弊した医師が質の高い医療を提供し続けられるでしょうか? いつか疲れ果て、その地域から去っていきます。それは逆に地域の将来にマイナスなのではないでしょうか。
政府関係者や報道機関も含め、この問題は皆が当事者です。2024年を真の働き方改革元年とするために、それぞれが「自分ごと」として考え、持続可能な医療体制はどうあるべきかを決めていこうではありませんか。
一般社団法人全国医師連盟
代 表 榎木 英介
本店所在 〒104-0025 東京都千代田区神田佐久間町2丁目7番地 第6東ビル605
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全国医師連盟では、2024年1月21日に第16回全国医師連盟シンポジウム「医師の働き方改革 〜あなたが職場を選ぶ時代へ!〜」を開催いたしました。
シンポジウムでは医師の働き方改革に関して真剣な議論が交わされました。詳細は以下の動画をご覧ください。
1)榎木英介(一般社団法人全国医師連盟 代表理事、医師)
2)林 恭弘先生 産業医の立場から
3)遠藤希之先生 High Volume Center の臨床研修指導医の立場から
4)荒木優子先生 勤務医の労働問題に向かい合う弁護士の立場から
5)全体意見交換
今回の声明は、このシンポジウムを踏まえて出されたものです。この動画もぜひご覧ください。
以上