令和3年11月7日に開催した第14回全国医師連盟集会
次世代のための専門医制度のあるべき姿を考える
~持続可能な医師養成システムを基盤とした医療制度を探る~
を受け、日本専門医機構に「専門医制度の改善を求める意見書」を提出しました。
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令和3年11月12日
一般社団法人 日本専門医機構
理事長 寺本 民生 殿
一般社団法人 全国医師連盟
代表理事 中島 恒夫
専門医制度の改善を求める意見書
令和3年11月7日に開催した第14回全国医師連盟集会で、「次世代のための専門医制度のあるべき姿を考える ~持続可能な医師養成システムを基盤とした医療制度を探る~」と題し、専門医制度をテーマに討論しました。若手医師にとって専門医制度はキャリアの一指針です。そのためには、よりよい制度設計が望まれ、さまざまな改善案をあげました。
日本専門医機構(以下、機構)におかれましては、専門医制度の根幹である「医療の質の担保」を実現させるために、現状の専門医制度が包括しているさまざまな課題を認識され、改善されますよう、全国医師連盟として以下の意見を申し上げます。
また病院勤務医の団体として、現場の意見ヒアリングなどを通じて積極的に協力いたします。是非とも御一考いただければと思います。
(1)専門医制度の目的を単一化させること。
「医療の質の担保」を目的に、一定水準の医師を育成する専門医制度を、各学会から機構を中心に刷新したことは時代の流れと考えます。しかし、専門医制度に「その他の目的」を付与することは、疑義をもちます。
日本の医療制度が国民皆保険制度に再構築されて半世紀が経過し、さまざまな課題が表出しています。その原因は、医療制度が社会の変容スピードから遅れているためです。特に、医師不足や偏在化は国民皆保険制度の根幹に関わるため、早急に解決すべき最重要課題です。
しかし、専門医制度が医師不足や偏在化という問題の解決手段にはなりえません。現に、専門医制度を有する諸外国で、専門医の資格条件として医療過疎地での勤務を課している国はありません。
そして、医師不足や医師の偏在化の解消は、本来は行政が取り組むべき仕事です。機構の本来業務ではありません。そのため、現在の専門医制度に誰もが首をかしげます。機構が本領本分に集中して取り組まれることを求めます。
(2)10年先の医療需要を満たせる現実的な制度設計をすること。
専門医制度の目的は、「医療の質の担保」。すなわち、「医療人の育成」です。臨床現場の医師は、「現行の専門医制度が医療のsustainabilityを揺るがす制度設計ではないか」と懸念しています。その懸念事項を機構が放置しているように見えます。「10年後に臨床現場で必要とされる医師を、十分に育てることができる土壌かどうか」という仮説を機構が検証しないために、現行の専門医制度が「場当たり的な制度設計」であるという印象を、我々も、若手医師も持ちます。10年後の医療現場に必要なsustainabilityを含む十分な人数の専門医が育成される環境として、現行の専門医制度が成立するのか、再検証されることを求めます。
(3)「見切り発車の制度運用」「運用開始後の調整・変更」といった専攻医を混乱させる運営を是正し、ガバナンスを強化すること。
「専門医制度がどうなっているのか分からない」という声が専攻医から上がりました。新専門医制度発足後の不十分な連絡や、山積みのままの未決定事項。このような疑念を専攻医に持たせている現状は、本来、あってはなりません。危機意識の希薄な機構を我々は危ぶみます。そして、あやふやに運用している現状を機構は早急に改めるべきです。
「始めてしまったのだから仕方ない」という弁明は無責任です。責任を取るべき人が責任をとり、10年先の医療現場を支える人材をしっかり育成できる制度を整備し、専門医制度を運営する義務が機構にあります。
経済の世界では「コンコルド効果」という言葉があります。医師の育成の先には患者がいます。「中途半端でもスタートしたから仕方ない」という論理は、患者、すなわち国民には通用しません。機構が若手医師から信用されるということは、国民からも信頼されるということです。機構が信用される組織となるためにも、制度運営の在り方の再考を求めます。
(4)機構にとって不都合な内容も議事録には記載し、公開すること。
会議の場での機構役員の発言が音声記録として残っているにもかかわらず、その内容を公表することが不都合であると機構が判断した場合、その内容を議事録に記載せず、話し合いを秘密裏に進めることは、極めて公益性の高い専門医制度においては極めて不適切な行為です。医師という職業が、「国民に対して正しい医療を提供する」という倫理観を堅持すべきである以上、機構の視点での都合の良し悪しではなく、取組を世に広く常に発信すべきです。
医療現場でも意見の多様性はあって然るべきです。内々の取り決めを密室で行うことは、専門医制度の正統性や意義を徒に傷つける行為です。機構が自らの無謬性を維持するために、情報の隠匿・改竄をするような組織にならないためにも、公正な議事録の全面開示を求めます。
(5)不十分な説明状況の中で、若手医師に費用を課する運営をしないこと。
専門医制度の費用負担に関して、機構には充分な説明義務があります。昨年、「何の費用かわからずに、高額な金銭をいきなり請求された」という強い憤りを感じた専攻医が少なくないことがわかりました。「必要だから請求した」という機構の姿勢は、あまりにも傲慢です。機構は若手医師をサポートし、彼らのキャリア構築を支援することが本分です。にもかかわらず、専攻医が「搾取されている」と思う機構の運営は、改善が必要です。金額と内容の妥当性を十分に説明してこそ、機構は信用されます。お金がかかる部分は、特に丁寧な運営を機構に求めます。
(6)理事会を含め総ての合議体は、バランスの取れた世代・ジェンダー構成で運営すること。
今後30年以上、少子高齢化がさらに進む日本では、社会機能を維持するために、女性のさらなる社会進出が必要です。であればこそ、新しい組織である機構でも女性の活用を組織の基本方針とし、理事・委員・メンバーに一定割合での女性登用を求めます。
今後の日本社会において、医療は必要不可欠な要素として、さらなる役割と責任が期待されています。俗に10年遅れていると言われる医療界ですが、新しく組織体を作り替えた機構だからこそ、このタイミングで10年先取りした取組を実現し、医療界全体をリードされることを求めます。
本件はメリットしかなく、費用もかかりません。実行しない手はありません。是非、早期の実現を求めます。
(7)結婚・妊娠・出産・子育て等のライフイベントに、総てのジェンダーが参画することを前提とした
キャリア形成が可能なカリキュラムを新たに作成すること。
上記(6)に関連し、女性のキャリア構築を前提としたカリキュラムが必要です。世界各国でも、女性が医師として社会に参画する流れは強まる一方です。日本でもこの傾向は同様です。
現在の専門医制度は、子供を産まず、育てないことを前提にした構成です。医師の育成においても多様性は必要です。そして、医師も人間であるという視点を持った取組を求めます。出産・育児が、医師のキャリア構築に不利に働かないカリキュラムの作成は必要不可欠です。ワークライフバランスを実現できない制度は、育児や介護、技量向上の時間を奪い、少子化や労働力人口の減少をより一層深刻にさせます。
① プログラム制とカリキュラム制への相互乗り入れを可能な制度にすること。
② 単独施設でのプログラム制(転居のない研修)を増やすこと
③ ライフイベントへの影響を検証するシステムを作ること。
上記は数例の提案ですが、現行制度でもこのような改善の余地は多分にあります。是非ともご一考ください。
以上。