ニュースリリース

2018/12/15

【全国医師連盟 理事会 緊急声明】医療安全を脅かし、勤務医の過労死基準超の長時間労働容認に断固として反対する(再掲)

一般社団法人 全国医師連盟 理事会 緊急声明(再掲) 医療安全を脅かし、勤務医の過労死基準超の長時間労働容認に断固として反対する 過労死基準を超えた長時間労働では、医療安全を守れない 平成30年12月15日

1 厚生労働省が過労死基準超の勤務医の長時間労働を容認することに、断固として反対する。

2. 地域医療の維持と長時間労働改善を両立させる唯一の抜本的方法は、急性期病院の集約化によ

  る一病院当たりの医師数増加を基盤とした交代制勤務の導入である。

3 宿直許可基準を現状より緩和し、さらなる過労死、労働災害を発生させてはならない。

4 医療安全を脅かしている夜間勤務明けの連続勤務を防止するため、連続可能な労働時間を26

  時間以下にすべきである。

5 厚生労働省、日本医師会、各病院団体は医療提供体制維持が不可能である現状を放置してきた

  ことを率直に詫び、医療の持続、安全性確保のため、急性期病院の集約化、再編が必要である

  ことを国民に説明し、そのロードマップを明示すべきである。

 医療提供体制の持続、医療安全の向上のためには、急性期病院の集約化による勤務医の労務環境改善が必然であることを、私たち全国医師連盟は繰り返し述べてきました。

 現在、厚労省で「医師の働き方改革に関する検討会(以下、検討会)」が開催されていますが、2024年4月から勤務医に適用する残業時間の上限規制を、他の労働者より長時間で、過労死認定され得る「年960時間」に結論づける厚生労働省の意向が報道されました。12月5日の検討会資料によると、現在、約1割の勤務医が年間1920時間を超える時間外労働に就いています。検討会では長時間労働対策として、医師不足地域や医師不足診療科の医師に対して、他の医師よりさらに長時間で過労死認定基準をはるかに逸脱する1000時間超の時間外勤務を容認し、その代わりに勤務間インターバルの確保を義務付けることを検討しています。

 しかし、これは愚策とも言える弥縫策にすぎず、勤務医の長時間労働の改善に向けての良策とは言えません。医師不足地域や医師不足診療科が認定されれば、その地域、その診療科を選択する医師がさらに減り、医師の偏在をよりいっそう助長することが容易に想像できます。

 報道では取り上げられていませんが、勤務医の安全だけでなく、医療安全を大きく損なっている原因が、日勤→夜勤→日勤と続く32〜36時間連続長時間勤務です。徹夜明け手術などの危険な状態を解消するためには、勤務間インターバルを設定するだけでは不十分で、連続勤務可能な時間を26時間以下に設定することが必要です。現在医師不足対策とされているタスク・シフトは有用ですが、他職種に代替不可能な医師業務が宿直・夜間診療です。今回の検討会の議論の中で、連続勤務時間の制限と宿直許可の基準が、勤務医の働き方改革の行方を大きく左右する試金石になります。

 また、昨今、多くの病院で宿直許可が取り消されていますが、勤務医の労働時間偽装の一つに、勤務時間に含まれない宿直扱いで夜勤を行わせている実態があります。先の県立奈良病院時間外訴訟の高裁判決で司法の判断は確立しており、それを逸脱するような宿直許可基準は認められません。

 勤務医の過重労働を放置してきた厚生労働省と各病院団体は、医師の勤務時間延長の特例を解消するための具体的かつ現実的なロードマップを提示する責務があります。本来、長時間労働改善の抜本的方法は、圧倒的に不足している医師数を大幅に増加させることです。しかし、医育機関の養成能力にも限界があるため、現状では急性期病院集約化による一病院当たりの医師数増加による交代制勤務の導入しか、長時間労働を改善する手段はありません。特に産科やNICU、外科、救急科など激務の診療科を存続させるためには他科以上に診療科単位での集約が必要です。検討会の資料では、勤務医の約4割の時間外労働が、過労死基準の年間960時間を超えています。今回の勤務医の働き方改革によって一病院当たりに必要な医師数を増加させ、医師が増員できない病院は急性期医療体制を放棄することが必要です。急性期医療体制の混乱をできるだけ避けるためには、急性期病院の計画的な再編が欠かせません。特に医師不足地域からの医師の流出を防止するためには、中核都市での急性期病院の再編を先行させる必要があります。医師の長時間勤務の解決策が、医師の増員や人口の減少であれば、短期的な解決策を提示していないことと同義です。

 多くの勤務医がこの会議の経過に注目しています。勤務医に支持されない勤務体制を採用している病院は、今後、淘汰されていくことを、一般の方々にはご理解いただきたいと考えます。

参考文献

・共同通信社:勤務医、残業上限を年960時間。働き方改革、厚労省調整

(2018/12/12 20:59)

https://this.kiji.is/445556018798576737?fbclid=IwAR3ZM7ECRGmFoHda249CtlSKjbeX3ucGYTB3hTMUM9_aBnxaXbKa8Z1iJmU

・NHK:医師の時間外勤務 医師不足地域は月平均160時間まで容認へ

(2018年12月13日 4時25分)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181213/k10011745141000.html

・毎日新聞社:勤務間インターバル、医師は「8時間」厚労省方針

(12/13(木) 20:57配信)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181213-00000074-mai-soci

・第13回医師の働き方改革に関する検討会 資料

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02802.html

・医師の宿日直・宅直に関する奈良病院事件判決

http://www.mibarai.jp/gyoushubetu/narabyouinjiken.html

・声明:日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会は分娩取り扱い病院における産婦人科勤務医の一層の勤務環境改善を求めます。2017/08/13

http://shusanki.org/clipping_page.html?id=452

・医療を持続可能とするためには、勤務医の労務環境の改善が必須である。

平成26年6月8日 全国医師連盟執行部

http://zennirenn.com/opinion/2014/06/post-26.html

・〜21世紀前半、日本の医療が生き残る道〜

 持続可能な医療提供体制構築のために、急性期病院の集約化は避けられない 2013年6月9日

http://zennirenn.com/opinion/2013/06/21.html

・医師の長時間労働は医療安全に有害ではないのか–医師の勤務時間と医療安全に関する総説

江原 朗 Japan medical journal (4263), 73-78, 2006-01-07

・[声明]全医連提言2011 医療の質を担保しつつ持続可能な医療体制を実現するための4つの提言

http://zennirenn.com/opinion/2011/12/post-22.html

(追)サブタイトルを追加し、再掲しました。