令和2年5月14日
ー緊急声明ー
SARS-CoV2感染症の第2波による医療崩壊を阻止し、国民を守るために、
医療従事者をSARS-CoV2から守る施策を求めます。
一般社団法人全国医師連盟 理事会
はじめに、全国のessential workersの皆様方のひとかたならぬ努力・尽力・奮闘と、国民の皆様の行動変容により、SARS-CoV2(以下、新型コロナウイルス)感染者が減少したことに感謝申し上げます。
新型コロナウイルス感染症は我が国の医療制度の脆弱性を顕在化させました。そして、「医療崩壊」の進行、さらに「医療消滅」に到ろうとさせています。北海道では第2波による新型コロナウイルス感染再拡大がすでに報じられました。その他の地域でも長期戦への備えが急務です。この感染症を克服し、医療消滅を阻止するために、以下の施策を要請します。
【要請】
1.PPEの国内での増産と安定供給
PPE(個人防護具):N95マスク/サージカルマスク、フェイスシールド/ゴーグル、
ガウン/タイベックスーツ等
2.交代制勤務の確保による持続性のある医療提供体制の確立
働き方改革を後退させてはならない。
3.良心に基づく医療における刑事紛争の防止(より進んだ謙抑的運用)
【解説】
1.PPEの国内での増産と安定供給
すでに、PPEの枯渇が繰り返し報じられています。新型コロナウイルス診療施設でのPPE不足が注目されています。再度感染拡大に至った際には、あらゆる受診者の感染を考慮する必要があり、全医療機関でPPEの装着が必要です。そのためには大量のPPEが必要です。すなわち、PPEの国内での増産と安定供給が喫緊の課題です。
PPEが枯渇すれば、無防備な医療従事者を新型コロナウイルスに晒し、そして罹患させます。これは労災であるだけでなく、人災です。現在は、パンデミックなどの有事を想定せず、最低限の医療資源の備蓄に留めた「ロジスティクスの失敗」が顕在化した状態です。欧州のように院内感染で新型コロナウイルス感染症に罹患した医療従事者が現場から不在になると、地域の医療制度は崩壊ではなく、「消滅」という事態にも陥ります。
医療以外の場においても、PPEが必要な職種(救急隊員、介護職員、検査技師など)は数多くあります。国家安全保障上も、新型コロナウイルスとの共存が求められるフェーズでは、これまで以上にPPEの国内での増産による安定供給と備蓄を図らなければなりません。
2.交代制勤務の確保による持続性のある医療提供体制の確立(働き方改革を後退させてはならない。)
医療の安全を担保し、医療従事者の消耗・脱落を防ぐためには、適切な労務管理が必須です。平時においても、多くの医療機関の労働環境は劣悪のまま放置され、医師の時間外労働が事実上青天井である医療機関は、未だに数多く存在します。この様な状態を放置していては、新型コロナウイルス感染症との長期戦を闘い抜くことは出来ません。
a)宿直中の実労働時間は時間外勤務時間と算定し、夜勤とすべき病院は全時間勤務時間とすること。
b)違法な時間外労働賃金支給の上限を撤廃し、実労働時間に対して適切な賃金を支給させること。
これらは必須です。上記a)b)を実施し監視することで、勤務医に適法に時間外労働賃金が支給され、それにより長時間労働が病院側にとって不利になり、「交代制勤務による持続性のある医療提供体制の確立」が誘導され、医療供給の安定が確保されます。
新型コロナウイルス感染症による災禍では病院閉鎖による病院集約化の問題点が可視化されました。しかし、現在の病院数を維持したままでは勤務医の労働時間削減は不能です。ある程度の集約化はこれからも必須で、特に都市部の急性期病院を大型化することは急務です。
3.良心に基づく医療における刑事紛争の防止の実現(より進んだ謙抑的運用)
平時においても、医療には不確実性が付随しています。新型コロナウイルス感染症による医療崩壊が進めば、呼吸器使用などでトリアージという「命の選択」を強いられる臨床現場が多数生じてきます。また、平時であれば行えていたであろう医療を提供できない状況では、重大な医療事故が起こることも不思議ではありません。
このような状況下で医療事故が発生した場合、現在の刑事法制度の下では、医療従事者が刑事訴追の対象になる可能性があります。現場の医療を萎縮させないためには、良心に基づき適切な手続きを経た医療行為であれば、結果の如何に関わらず刑事紛争に至らない制度設計が求められます。
呼吸器やECMOなどの使用のトリアージなどに、厚労省としての指針を明示し、意思決定も最前線の医師に任せないシステムを構築し、医療従事者の刑事処罰を予防する体制を作ることが必要です。
【参考文献】
・Essential workers:https://www.gov.uk/guidance/coronavirus-covid-19-getting-tested
・全医連理事会提言2020
将来の医療制度の提供体制に関する全国医師連盟理事会からの提言 その1
医療の持続性を確保するために必要なことは、都市部での急性期病院の集約化である。
―急性期病院集約化の鍵は、急性期医療を担う勤務医が握っている。―
http://zennirenn.com/opinion/2020/01/post-39.html
・全医連理事会提言2020
将来の医療制度の提供体制に関する全国医師連盟理事会からの提言 その2
地方では、医療以外のインフラ整備も視野に入れ、医療圏を積極的に再編すべきである。
http://zennirenn.com/opinion/2020/01/post-40.html
・医師の労働時間の短縮に向けた取組を徹底するため、客観的記録方法を用いた医師の就業状況の把握を原則義務化の要望