ニュースリリース

2021/11/07

専門医制度に関する提言

一般社団法人全国医師連盟理事会

代表理事 中島恒夫

骨子

(1)専門医制度の目的を「医療の質の担保」のみとする。

   特に、若手医師の技量向上を目的とした専門医制度とすべし。

(2)専門医制度を、顕在化している医師不足の偽装解決策に流用しない。

(3)専門医制度は10年先を見通して設計する。

   バランスの取れた世代・ジェンダー構成による組織の下で、子育て世代のキャリア形成を阻害しないカリキュラムを新たに作成する。

(4)日本専門医機構は、直近の事務処理作業を処理する職員確保とAi化を目指し、技術系正規職員を大幅に増やすべきである。

(5)日本専門医機構の業務を「選択と集中」させるため、いわゆる「二階建て制度」を根本から見直す必要がある。

解説

 我が国の専門医制度は、1962年の麻酔科学会による麻酔科指導医制度に端を発する。以来、各学会も専門医制度を導入し、約半世紀が経過した。

 しかし、医療制度が少しずつ変化している中で、医療現場の劣悪な就労環境と同様に、専門医制度の様々な問題点も改善されることなく経過している。いや、むしろ悪化している。専門医制度も時代に合わせた改革が必要である。

 「専門医」とは、特定診療分野における専門家である。「専門医」には、一定以上の質を担保する知識・技術・経験が備わっていることが条件となる。過去の反省を踏まえ、現在の専門医制度が「医療の質の担保」を第一義としていることに、異論を挟む人はもはやいないであろう。

 しかし、専門医に紹介したにもかかわらず、お粗末な返書を受け取ったという話も枚挙がない。医師不足の昨今、専門医であっても「専門外の診療」に迫られる状況の常態化は、実に滑稽である。現状は、専門医制度が目指した社会ではないはずだ。「二階建て制度」といわれる「サブスペシャリティー専門医」制度の問題でもある。このような問題は、「専門医」という用語がそもそも誤用であることに端を発する。現状の専門医は、その分野の医療について一定以上の水準に達した医師であると「認証」されたのだから、かつて用いられていた「認定医」が相応しい呼称と考える。「専門医」という呼称に、実態との乖離を感じる臨床医は多いだろう。

 専門医制度の研修対象となる若手医師達の「技量向上」に対する意欲には、目を見張るものがある。今回、全国医師連盟が実施した「専門医アンケート」でも、専門医制度を通じて技量向上を図ろうという意欲を見て取ることができる。

 しかし、従前の「専門医制度」の頃から指摘されていた様々な問題点が、一向に改善していない。制度を刷新するにも関わらず、旧弊が残り、制度の趣旨を歪曲する取組が目に付く。これでは、若手の意欲も削がれる。

  1. 提出書類が煩雑で、臨床以外の部分での負担増。
  2. 認証基準を上げたことによるエントリーの断念。
  3. 指導医への負担。
  4. 指導医の恣意による成果判定。
  5. 医師不足や偏在対策として、異動を前提とした制度設計。
  6. 結婚・妊娠・出産といったライフイベントを前提としない制度設計。

 今後30年以上は少子高齢化がさらに進む日本社会では、女性の社会進出を抜きに現在の水準を維持することは不可能である。現に、各医学部とも女性入学者の比率が高まっている。しかし、これは日本特有の現象ではない。他の先進国でも同様である。女性医師のキャリア構築を前提としたカリキュラムは不可欠である。「新専門医制度」の設計には、日本社会の将来像と親和性が重要である。現状は、その配慮に欠けている。そのためには、専門医制度にも多様な個人のライフプランを可能とするカリキュラムを用意しなければならない。当然、出産や育児を経験していない者だけで多様なカリキュラムを策定することは不可能だろう。

 日本専門医機構の体制にも不備がある。膨大な事務作業をこなせていない。現場で汗をかく職員に負担をかけている。「総作業量」は、「人手」と「作業効率」の掛け合わせと相関する。「人件費を捻出できないから雇用できない」という理由で思考停止しているのであれば、作業効率を上げるための「Ai化」という手法もある。そのための技術系正規職員を大幅に増やすことを図ってもよいはずだ。

 それでも職員を大幅に増員できないのであれば、日本専門医機構はこなせない業務を抱え込む必要はない。身の丈にあった業務に専念すればよい。基本領域のみの業務に、あるいは「総合診療」にのみ徹し、サブスペシャリティ分野の業務を停止すればよい。できないことをできると言い張る欺瞞は、大勢に迷惑をかけるだけである。身の丈に合った専門医制度への「選択と集中」は、恥ずかしいことではない。