2023年3月26日 (日) 一般社団法人全国医師連盟理事会
日本の医療機関は、夜間をはじめとした時間外労働の「労働時間偽装」として「宿日直」を用いてきました。時間外労働から除外することで割増賃金を不払いにする「詐取」の根拠として、『宿日直』を悪用してきました。
2019年に労働基準法が改正され、猶予されていた勤務医の労働時間の上限が、2024年4月には他職種と同様に規制されます。各医療機関では「労働時間の把握」「時間外労働時間の短縮」から医師の働き方改革を始め、可能な施設では宿日直許可を慌ただしく申請している現状です。
ただし、今回の働き方改革では、宿日直は「原則として通常業務から解放されたもの」に許可され、宿日直中の実労働時間に対して時間外割増手当を支払うことが再確認されています。
そこで、現時点あるいは2024年4月以降に、勤務医が自らの労働環境に関して注意すべき点を列記します。
2019年の医師の宿日直許可基準見直しで、部署や時間帯、救急当番日などを避けて許可申請可能となっています。それによって、宿日直許可の及ぶ範囲が病院ごとに異なります。宿日直許可申請で除外された部署や時間帯、繁忙日などは、仮眠時間も含めて全勤務時間が労働時間に該当します。各施設で宿日直許可が及ぶ範囲を確認することは重要です。
宿日直許可が得られたことをもって、今まで通り、全ての部署、全ての時間外を宿日直扱いにする「違法運用病院」は出てくるでしょう。
宿日直に関して、通常勤務の3分の1以上の宿日直手当に加えて、実労働時間分の時間外割増手当を払う義務が医療機関にはあります。宿日直中の手当が定額(低額)で、実労働分の時間外割増手当の無い施設は、その旨の確認が必要です。
連続勤務時間制限を超過したり、宿日直中の労働時間が長くなれば、代替休息を得る必要がありますので、その確認も必要です。
別の問題も指摘しておきます。「Dr.JOY」に代表されるスマートフォンアプリを利用した位置確認機能です。救急外来や病棟以外の在院時間を労働時間と認めない病院があります。これは、医局等で行われる診療に関する事務作業や診療に必要な学習を一切無視しています。病院と交渉する余地があると考えます。
各施設で自己研鑽と労働時間の違いを規定しているでしょうが、「医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について」(2019年7月1日 基発0701第9号労働基準局長通達)と齟齬が無いか確認すべきです。この通達では、当該研鑽が上司の明示・黙示の指示により行われるものである場合は労働時間と解しており、その具体例が列記されています。
実労働時間や自己研鑽の解釈に関して、職場の考え方に疑義がある場合、社会保険労務士、弁護士、労働基準監督署(労基署)に相談し、さらに裁判所の判断を仰ぐことが日本のルールです。労働時間の過少申告等を強制された場合は、労基署に(匿名メールでも)随時相談することが可能です。資格取得などの目的がある場合は、違法労働を強制された証拠を保全し、実労働時間の記録を残すことで、過去3年間分の時間外手当を退職時に請求することが可能です。
勤務医が時間外手当の支払いを請求しなければ、病院管理者に時短の動機が生じません。金銭のためだけではなく、皆さんの心身の健康を守るためにも、そして、次世代の医師たちを守るためにも、時間外手当を粛々と請求することは大切です。
医師の働き方改革実現のためには、勤務医の交代制勤務導入、主治医制緩和、他職種へのタスクシフトが欠かせません。しかし、そのためには急性期病院の集約によるスタッフと患者の集約が必要です。
今後、限られた条件の中で職員の労働環境を少しでも改善しようと変化する施設と、その意思を全く見せず数字合わせに終始する施設に分かれます。全職種で働き方改革が進む中、よりブラックな企業が市場から退場すべきであることは、病院も同様です。勤務医が経営者側のマインドをあまりにも持ちすぎることには弊害があります。より良い勤務環境の施設があれば異動し、結果的に現施設が集約される方が地域医療にとっても良いこともあり得ます。
【参考文献】
医師の宿日直許可基準・研鑚に係る労働時間に関する通達(下記のいずれも、厚労省のホームページに掲載)