2019年6月9日 発表
【全国医師連盟声明】 宿日直の許可基準を現状より改悪することは許されない
【要旨】
(1)本来、宿日直は通常業務から開放されたものであるが、現状は宿日直体制で時間外診療を
行っている違法状態の病院が少なくない。
(2)過去の労働裁判では、現行の法令通達に基づいて司法判断がなされている。
(3)今回予定されている宿日直許可の基準の見直しは、司法判断の基準となっている過去の通
達に基づくべきであり、違法な現状に合わせた基準の緩和は行うべきではない。
【解説】
夜間診療・休祝日診療を宿日直扱いとすることで、3つの大きな問題を生じさせている。
1:手薄な人員による医療提供体制
2:宿直業務時間を労働時間にカウントしないことによる長時間労働の隠蔽
3:正当な時間外労働手当を支払わず、些少な宿日直手当で誤魔化している労基法違反。
「医師の働き方改革に関する検討会 報告書」を受け、5年後に導入される勤務医の労働時間上限などが決定された。しかし、医師の働き方改革を進めるうえで、非常に重要なピースがまだ発表されていない。それは、宿日直許可の基準の見直しである。
現行の宿日直許可の基準は、「断続的な宿直又は日直勤務の許可基準」(昭和 22年9月13日 発基17号)に基づいている。さらに、「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化の当面の対応について」(平成14年11月28日 基監発第1128001号)で、宿日直許可を取り消さない、宿直中の通常業務の日数や労働時間の上限が示されている。奈良県立病院産科医師事件(平成25年2月12日最高裁上告不受理決定により、平成22年11月16日大阪高裁判決が確定)など、宿日直許可に関わる裁判でも、上記の基準が裁判所の判断に大きく影響していると考えられる。
現在、宿日直扱いの業務でありながら、日常的に救急搬送を受ける医療機関は珍しくない。通常業務から解放されていない宿日直を強いている病院に対して、労働基準監督署が宿日直許可を取り消している事案が後を絶たないことも頻繁に報道されている。
第11回「医師の働き方改革に関する検討会」での資料には、「今回検討しているのは、昭和24年に発出された宿日直許可基準を、その許可の考え方はそのままに、許可対象となる業務の例示を、現代の医療の実態を踏まえて具体化することである。」と記載されているが、最終報告書では、「断続的な宿直として労働時間等の規制が適用されないものに係る労働基準監督署長の許可基準については、現状を踏まえて実効あるものとする必要がある。具体的には、当該許可基準における夜間に従事する業務の例示等について、現代の医療現場の実態と宿日直許可の趣旨を踏まえて現代化する必要がある。」と改変され、「現代の医療現場の実態を踏まえる」とその内容が後退している。
近々、医師の宿日直許可の基準見直しが公表される予定であるとの報道もあるが、先の検討会では、「稀である」と繰り返されている宿日直中に容認される「通常業務の具体的頻度」や「労働時間」については具体的に議論されていない。基準の見直しが文言や医療行為の現代化に留まるのであれば問題ないが、宿日直中に容認される通常業務の頻度と労働時間の上限設定次第では、現状の違法状態を合法化することになる。??現状の宿日直許可基準を緩和することは、医師の働き方改革の方向性に真っ向から背くことになり、医師以外の各資格職の労働強化にも繋がるうえ、これまでの裁判所の判決とも整合性が取れなくなる。
全国医師連盟は、宿直許可基準の改悪には断固反対する。 令和元年6月9日
一般社団法人 全国医師連盟
【参考資料】
・医師の宿日直勤務と労働基準法 宿日直勤務の許可(労働基準法第41条)
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/04/s0425-6a.html??
・医師の働き方改革に関する検討会 報告書(平成31年3月28日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000496522.pdf
・基監発第1128001号 平成14年11月28日
医療機関における休日及び夜間勤務の適正化の当面の対応について
厚生労働省労働基準局監督課長
http://plaza.umin.ac.jp/~ehara/Tsutatsu01.html
労基署による集団指導の対象として以下の事例が引用されています。
集団指導の実施
(2) 対象事業場は、次のとおりとすること。
イ 宿日直勤務について、次のいずれかに該当するもの
? 自主点検表4(2)において、宿直又は日直勤務の回数が許可基準を上回るもの
? 自主点検表4(4)において、1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が8日以
上のもの
ただし、次のものは除外すること。
a 1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が8日ないし10日である場合において、
自主点検表4(6)の救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに3時間以
内のもの
b 1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が11日ないし15日である場合において、
自主点検表4(6)の救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに2時間以
内のもの
c 1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が16日以上である場合において、自主点
検表4(6)の救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに1時間以内のも
の
? 自主点検表4(7)において、宿日直勤務中の通常の労働に対し宿日直手当のほか必要な賃金を支払って
いないもの
ウ 自主点検表を提出した事業場のうち、宿日直勤務の全部又は一部について所轄労働基準監督長の許可を得
ることなく、許可を受けた場合と同様の取扱いを行っていると考えられるもの
・医師の宿日直・宅直に関する奈良病院事件判決
http://www.mibarai.jp/gyoushubetu/narabyouinjiken.html
・無許可で医師ら当直 千葉県立6病院、労基署が一部立ち入り??
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG21H7T_R20C16A7CC1000/?
・第9・10回の議論のまとめ(宿日直、自己研鑽等について) 平成30年11月9日
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000390808.pdf
・NEWS 労働時間管理上の宿日直と研鑽の扱い、6月にも通知発出―厚労省