ニュースリリース

2020/1/26

医療の持続性を確保するために必要なことは、都市部での急性期病院の集約化である。 ―急性期病院集約化の鍵は、急性期医療を担う勤務医が握っている。―

全医連理事会提言2020

将来の医療制度の提供体制に関する全国医師連盟理事会からの提言 その1 医療の持続性を確保するために必要なことは、都市部での急性期病院の集約化である。 ―急性期病院集約化の鍵は、急性期医療を担う勤務医が握っている。― 一般社団法人全国医師連盟 理事会 代表理事 中島 恒夫

【緒言】

 厚生労働省(以下、厚労省)は、

  ・地域医療構想の実現、

  ・医師の働き方改革、

  ・医師偏在対策

を「三位一体の改革」とし、医療提供体制の改革に着手した。しかし、「安全で持続可能な医療提供体制」を担保するための「目指すべき具体的な形」を厚労省は明示していない。

 以下に、将来の医療提供体制に関して、我々全国医師連盟(以下、全医連)理事会からの提言を記す。

【骨子】

1:安全で持続可能な医療提供体制の構築のために最も重視すべき施策は、医療従事者、特に急性期病院の勤務医の労働環境の改善(過重労働の解消、適法な賃金支給)が重要である。

2:急性期病院の勤務医の時間外労働上限を他職種と同様にすべきである。

  その実現のためには主治医制を廃止する必要があり、医師の交代制勤務が可能となるまで急性期病院に勤務医を集約することが重要である。

3:人員集約の効果が大きく、高齢化が急速に進む都市部の急性期病院の再編を、必要な医療提供体制の再編の一環として先行すべきである。

4:個々の勤務医がより良い就労環境を求めることは、急性期病院の集約化を加速し、より安全な医療を提供する体制を再構築することに繋がる。 ===========================================

【解説】

1:安全で持続可能な医療提供体制の構築のために最も重視すべき施策は、医療従事者、特に急性期病院の勤務医の労働環境の改善(過重労働の解消、適法な賃金支給)が重要である。

 安全で持続可能な医療提供体制の持続性を確保するために、最も重視すべきことは、勤務医の労働環境を持続可能な体制にすることである。

 今般の医師の働き方改革に関する厚生労働省内の議論では、医師の時間外労働上限を年960時間あるいは年1860時間とした。この決定自体が異常であり、過労死2回分(参考文献1)の時間外労働を容認している(参考文献2)ことが医師の過重労働の常態化を国が強要していることを示唆している。常人であれば健康を害する環境下であり、健全な医療を提供することは非常に難し。すなわち、医療安全を大きく毀損することを国が容認した証左である。

 勤務医の過重労働が放置されている大きな要因は、時間外労働賃金の不払いであると考える。客観的方法で労働時間を管理していない病院がまだ多く、違法な年俸制を続ける病院も少なくない。勤務医の労働対価を医療機関に適正に支払わせる施策こそが、勤務時間短縮の動機となり、真の「働き方改革」である。

2:急性期病院の勤務医の時間外労働上限を他職種と同様にすべきである。その実現のためには主治医制を廃止する必要があり、医師の交代制勤務が可能となるまで急性期病院に勤務医を集約することが重要である。

 急性期病院勤務医の過労死レベルを超える過重労働を解消するためには、急性期病院の勤務医を大幅に増員することが急務である。しかし、勤務医総数が急に増えることはないため、急性期病院を集約し、一施設あたりの勤務医を増員することが有効な一施策と考える。

 全医連は、急性期病院の大胆な集約化を以前から主張してきた(参考文献3)。「一診療科で最低7名」揃うことで、交代性勤務が初めて可能となるモデルも主張してきたが、日本産科婦人科学会の第1回拡大サステイナブル産婦人科医療体制確立委員会では、7名では病欠など急な欠勤への対応や学会への参加もままならず、時間外労働を年960時間未満(A水準)とするためには、10名必要だとの試算が発表された(参考文献4)。

 急性期診療の本質は救急医療である。時間との勝負がつきまとう循環器内科や脳神経外科〔脳神経内科)、緊急手術に対応する外科や麻酔科も人員を揃える必要がある。

 加えて、大規模施設の手術成績が良いことが明らかになっている。急性期病院の集約化を進めることで症例数を集めることが可能となり、地域の医療レベル向上に寄与する。

 これらの実現のためには、現在の主流である主治医制が大きな阻害要因である。主治医制は少ない医師で多くの患者を診ることを前提とした仕組みであり、結果として一人の医師の負担を昼夜問わず大きく増大させている。解決策としては、複数医師による交代制勤務、チームでの医療提供であると考える。

3:人員集約の効果が大きく、高齢化が急速に進む都市部の急性期病院の再編を、必要な医療提供体制の再編の一環として先行すべきである。

 令和元年9月26日に厚労省から発表された「公的病院の再編統合リスト」(参考文献5)は、我々全医連の主張する『急性期病院の集約化』とはその目的が全く異なる。公表されたリストは、公立、公的病院に限定され、また医療圏人口100万人を超える地域は対象外である。

 しかし、我々の考えは、『都市部』の急性期病院の集約化が改革の焦点であると考える。我々の意味する都市部とは、都道府県庁所在地、政令指定都市、中核市を指す。都市部と過疎地では医療提供体制が全く異なる。代替医療機関が豊富で、人員集約効果を見込める都市部の急性期病院の集約化を先行すべきである。

 住民の高齢化がすでに進んでいる地方と異なり、これから一気に高齢化が進む人口密集地域の都市部にも医療提供体制に大きな変化が必要となる。医療資源を集約化して高度及び超急性期医療機関として存続を図る施設と、回復期や高齢者医療に分化していく施設に再編されるべきである。

4:個々の勤務医がより良い就労環境を求めることは、急性期病院の集約化を加速し、より安全な医療を提供する体制を再構築することに繋がる。

 病院集約化に対するインセンティブが無い病院管理者に急性期病院の再編を期待しても、大きな成果は得られない。今般の働き方改革では、長時間労働の改善だけでなく、適切な労務管理と適法な時間外手当支給が求められている。従前の様にその両者を無視したまま継続しようとする病院は淘汰されるべきである。個々の勤務医がより良い就労環境を求めていくことで労務環境が劣悪な病院が淘汰され、急性期病院再編を加速する。

 勤務医は、医療安全の向上と自身のスキルアップと心身の安全のために、労務環境改善を求め、あるいはより良い就労環境を求めて異動することを躊躇する必要はない ===========================================

【追記】

 過疎地を含めた地方の急性期病院の再編については、稿を改めて発表する。 ===========================================

【参考文献】

1)過労死2回分!? 異常すぎる「医師の労働時間」が放置されるワケ  中島 恒夫,医療ガバナンス学会2019.10.7

https://gentosha-go.com/articles/-/23315

2)医師の働き方改革報告書  https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04271.html

3)勤務医は備品にあらず!全医連集会  県立病院調査、「過労死」前提の36協定も

https://www.m3.com/news/iryoishin/222662

4)「宿日直許可なし」なら、1診療科当たり医師10人が必要

https://www.m3.com/news/iryoishin/700011

5)第24回地域医療構想に関するWG 令和元年9月26日 参考資料1-2

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000551037.pdf

6)【全国医師連盟 理事会 緊急声明】医療安全を脅かし、勤務医の過労死基準超の長時間労働容認に断固として反対する(再掲)

http://zennirenn.com/news/2018/12/post-86.html

全医連理事会提言2020 その1.pdf