ニュースリリース

2020/1/26

地方では、医療以外のインフラ整備も視野に入れ、医療圏を積極的に再編すべきである。

全医連理事会提言2020

将来の医療制度の提供体制に関する全国医師連盟理事会からの提言 その2 地方では、医療以外のインフラ整備も視野に入れ、医療圏を積極的に再編すべきである。 一般社団法人全国医師連盟 理事会 代表理事 中島 恒夫

【緒言】

 厚生労働省(以下、厚労省)は、

  ・地域医療構想の実現、

  ・医師の働き方改革、

  ・医師偏在対策

を「三位一体の改革」とし、医療提供体制の改革に着手した。しかし、「安全で持続可能な医療提供体制」を担保するための「目指すべき具体的な形」を厚労省は明示していない。

 将来の医療提供体制に関する我々全国医師連盟(以下、全医連)理事会からの提言として、「都市部の急性期病院の集約化」を本日発表した(http://zennirenn.com/news/2020/01/post-92.html)。今回は、地方の医療提供体制に関する提言を以下に記す。

【骨子】

1:必要とされる急性期医療を安定的に供給するために、医療圏の広域化を図るべきである。

2:救命を軸とした医療機関の配置と、交通インフラの整備を積極的に進めるべき。

3:若手医師の教育機関を整備するために、地方でも急性期病院の集約化は欠かせない。

4:地方においても、個々の勤務医がより良い就労環境を求めていくことが、急性期病院再編を加速する鍵になり、より安全な医療を提供する体制を再構築することに繋がる。 ===========================================

【解説】

1:必要とされる急性期医療を安定的に供給するために、医療圏の広域化を図るべきである。

 将来の医療制度の提供体制に関する全国医師連盟理事会からの提言 その1「医療の持続性を確保するために必要なことは、都市部での急性期病院の集約化である。」(http://zennirenn.com/news/2020/01/post-92.html)に記したように、急性期病院の集約化は都市部を先行させるべきであるが、それは地方や過疎地での病院再編が不要という意味ではない。本来、発生頻度が高い救急疾患の治療を各医療圏内で完結すべきであるが、現時点では、多くの急性期病院に医師が薄く広く配置されているために、各急性期病院で受け入れ可能な疾患や病態が大きく制限されている。地方においても各医療圏内で急性期病院を再編することは、勤務医の負担の減少を図ることができ、救急応需能力の向上も期待できる。

2:救命を軸とした医療機関の配置と、交通インフラの整備を積極的に進めるべき。

 今後、医療資源の乏しい医療圏では、単独で急性期医療を維持すること自体が困難になる。その様な地域では現状の医師数や救急疾患が治療可能な搬送時間(いわゆるgolden time)を念頭に、ドクターヘリの整備、高規格道路の整備など、急性期病院までのアクセスを整備した上で、医療圏を再構築すべきである。十分な再構築が不可能な地域では、自治体再編も含めた医療圏の広域化を進める必要があると考える。

 過疎地の病院でも勤務医の労働時間制限への対応は2024年から必須となる。医療資源が乏しいだけでなく、人口減少が著しい地域では、他のインフラ整備だけでなく、自治体再編をも視野に入れたうえで、職員の勤務体制を持続可能なレベルに維持することが必要となる。

3:若手医師の教育機関を整備するために、地方でも急性期病院の集約化は欠かせない。

 医療圏の再構築を考える上で忘れてはならない重要なことがもう1つある。急性期診療が可能な専門医の維持、養成が可能であるということ。希少な専門医がその専門性を発揮できない環境で疲弊すれば、後進の育成もかなわない。貴重かつ重要な人材をどのように育成し増やしていくか、ということも忘れてはならない。

4:地方においても、個々の勤務医がより良い就労環境を求めていくことが、急性期病院再編を加速する鍵になり、より安全な医療を提供する体制を再構築することに繋がる。

 地方においても、個々の勤務医がより良い就労環境を求めていくことは、急性期病院再編を加速する鍵になり、より安全な医療を提供する体制を再構築することに繋がる。病院集約化に対するインセンティブが無い病院管理者に急性期病院の再編を期待しても、大きな成果は得られない。今般の働き方改革では、(1)長時間労働の改善だけでなく、(2)適切な労務管理と適法な時間外手当支給が求められている。従前のように、その両者を無視したまま医業を継続しようとする病院は淘汰されるべきである。

 個々の勤務医がより良い就労環境を求めていくことは、労務環境が劣悪な病院が淘汰され、急性期病院再編を加速する鍵になる。地方の急性期病院の勤務医も、医療安全の推進のため、自身のスキルアップと心身の安全のために、労務環境改善を求め、あるいは、より良い就労環境を求めて移籍することを決して恥じる必要はない。

【最後に】

 日本は世界で高齢化率が最も高く、医療提供体制以外の様々な部分でも、現状維持ではなく、その社会環境に合わせた体制に変革すべき時期を迎えた。中でも、命と健康に関わる医療提供体制の再編は最優先すべき政治課題と考える。社会と住民にとって最適な解を模索し、実行する段階であると考える。 ===========================================

【参考文献】

1)第24回地域医療構想に関するWG 令和元年9月26日 参考資料1-2

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000551037.pdf

2)全医連理事会提言2020 将来の医療制度の提供体制に関する全国医師連盟理事会からの提言 その1

  医療の持続性を確保するために必要なことは、都市部での急性期病院の集約化である。

  ―急性期病院集約化の鍵は、急性期医療を担う勤務医が握っている。―

http://zennirenn.com/news/2020/01/post-92.html

全医連理事会提言2020(地方編).pdf