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[声明]【緊急声明】「ウログラフィン」誤投与事故の一審判決に対する緊急声明

 7月14日に東京地裁で判決が言い渡されました「国立国際医療研究センター病院『ウログラフィン』誤投与事故」に関する全国医師連盟からの緊急声明を発表します。


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緊急声明


国立国際医療研究センター病院「ウログラフィン」誤投与事故はシステム・エラー

刑事司法の場では医療安全を語れない


一般社団法人 全国医師連盟


 平成26年4月に国立国際医療研究センター病院にて発生した「ウログラフィン」誤投与事故の刑事裁判で、一審判決(禁固1年、執行猶予3年)が平成27年7月14日に言い渡されました。

 全国医師連盟は、この事故で亡くなられた患者さんのご冥福を深くお祈りいたしますとともに、ご遺族に心より哀悼の意を表します。

 その上で、「医療安全」「再発防止」の観点から、この医療事故がシステム・エラーであることを全国医師連盟は指摘します。そして、最前線の現場で働く同じ医療者として、単純過失を罪に問う現在の刑事司法の場では医療安全を語ることができないことから、業務上過失致死傷罪(以下、業過罪)の改廃を全国医師連盟は強く望みます。


 現代社会は日々進歩し続け、より複雑なシステムとして構築され続けています。日常生活のあらゆる面で求められる安全を、一個人の技量だけで維持することは、限界をすでに超えています。故意によらない事故の原因を最終立会者のヒューマン・エラーに帰結してきたこれまでの手法(特に刑事司法)は、あらゆる事故の再発防止には全く役立ってきませんでした。

 「ヒューマン・エラーは避けられないものであり、それをカバーするべきシステムが必要である」という考え方が、事故の再発防止に有用であると、人命に関わる多くの業務現場で周知されつつあります。また、さらに発展させた考え方として、「フェール・セーフ(故障や操作ミス、不具合などの障害が発生することも予め想定し、それが発生した際の被害を最小限にとどめる工夫を盛り込んだ設計思想)」や「フール・プルーフ(利用者が誤った操作をしても危険に晒されることがないよう、設計段階で安全対策を施しておくこと)」をいう手法も知られ始めました。


 ウログラフィンの誤投与が発生した国際医療センターという組織には、改善すべき様々なシステム・エラーの存在が推認できます。

(1)誤投与による医療事故を警察に届け出ない院内体制

(2)医師の基本的知識を充足するための教育体制

(3)薬剤師をはじめとした複数の職員による検査やダブルチェックを可能とするための勤務体制

(4)誤った医療行為を行おうとしてもそれが防止されるシステム等の構築

などです。

 また、ウログラフィンの製造メーカーも、過去に7件も発生した自社製品による悲劇への有効な対策を講じることが出来ませんでした。これらは、厚生労働省の医療・薬務行政を筆頭に、日本の医療界全体にも共通した改善課題です。


 今回の裁判において、事故を起こした医師の「勉強不足」「基本的な心構えの欠如」が事故の原因であると検察は主張しました。そして、このことを医療者に認識させることが同様の事故の再発防止のために必要であるとも主張し、被告人に厳罰を求めました。しかし、本件と同様の事故がこれまでに6件も裁かれています。いずれの裁判も被告人個人の責任を追及し、過失を認定しましたが、次の事故の発生を防ぐことはできませんでした。刑事裁判が医療安全、再発防止の役に立たないことは、もはや誰の目にも明らかです。

 民間企業等では組織改善のための科学的な手法として「PDCAサイクル」が浸透していますが、司法手続はそのような発想に立っておらず、システムエラーの防止策とは相容れないからです。医療過誤事件を刑事裁判で裁き個人の責任として断罪することは、かえって医療安全の構築を阻害し、このままでは次の被害者が生まれるばかりです。


 医療はもとより日常生活のあらゆる面で、未来は不確実で予測しがたいものです。しかし、現場の最前線で奮闘している私たち医療従事者は、善意と英知を以て不確実な事象の発生を未然に防ぐよう、日々懸命に努めています。患者さんのために自らを犠牲にしてまで医療に従事する多くの医師の存在が、日本の医療体制を支えています。


 ふり返れば、本裁判と同様に、業過罪が医療安全を妨げてきた事例は枚挙に暇がありません。業過罪の司法判断を求められれば、裁判所は現行法に則って判断するしかありません。それ故、医療安全を望むのであれば、単純過失による医療過誤事件を刑事裁判の手続きに乗せない(起訴しない)努力を、警察も、検察もそして患者もすべきです。


 繰り返しになりますが、医療者個人の刑事罰が医療安全に寄与しないことは歴史が明らかにしています。国民が医療安全の向上を願うのであれば、そして、平成27年10月1日から運用が開始される医療事故調査制度を医療法に記されている『医療安全』のために活用するのであれば、業過罪の速やかな改廃が必要であることを、全国医師連盟は繰り返し主張し続けます。


【参考文献】

・2013.04.20:業務上過失致死傷罪に関する、全医連声明

zennirenn.com/opinion/2013/04/post-20.html


・2014.04.30:【緊急声明】 医療事故調査に欠けている視点「フールプルーフ」

               ー国立国際医療研究センター病院医療事故報道に関連してー

zennirenn.com/opinion/2014/04/post-25.html


・2015.03.08:「医療事故調査と刑事捜査に対する緊急声明」を発表します。

zennirenn.com/opinion/2015/03/post-30.html

2015年07月16日 全国医師連盟

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