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解説・オピニオン

[声明]公立八鹿病院 研修医過労死裁判 鳥取地裁判決に対する全国医師連盟の見解

 平成27年3月18日に公立八鹿病院の過労死裁判の高裁判決があり、一審で認定されていた過失相殺が控訴審では認められず損害賠償が増額されました。

 全国医師連盟では、平成26年11月4日付で、本裁判に対する意見書を送付しました。その内容は、長時間労働やパワハラを引き起こす背景を解説したうえで、長時間労働を課されている勤務医が長時間労働を回避することは、現実的に非常に困難であることを述べました。
 全医連からの意見書は、原告の戦略上、公開していませんでしたが、控訴審判決を受け、ここに公開いたします。

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「最期の砦」は死亡フラグ。
長時間勤務によるうつ病の発症は勤務医のコントロール外にある。
(公立八鹿病院 研修医過労死裁判 鳥取地裁判決に対する全国医師連盟の見解)

 2014年5月26日、鳥取地裁は公立八鹿病院(兵庫県養父市)に勤務していた整形外科医が2007年12月に過労自殺した事案で、病院を運営する公立八鹿病院組合と上司の医師2人の連帯責任で、両親に約8000万円を支払うよう命じました。判決では、月170時間にも及ぶ時間外労働に加えて、上司医師のパワーハラスメントが認定されましたが、一方、過労自殺した本人自身が医師だったという点などから賠償金が2割減額されています。

・「過失相殺」について
 この「過失相殺」の部分に於いては、我々の考えとは大きく乖離しています。そもそも、過労自殺に追い込むほどの長時間労働を課されている状態では、当事者の正常な判断力が喪失しており、自らの心身の状態を客観的に判断できないことは明らかです。仮に、判断力が失われていない時に長時間労働に対する危機を抱いても、それを容易に解決できない環境であることを後述します。
 過労自殺した本人が医師であるから過失相殺されるということであれば、医師以外でも長時間労働が過労自殺に繋がるという知識がある職種の人が過労死した場合、常に賠償が減額されることになってしまいます。また、この考えに従えば、長時間勤務を命令した医師である病院管理者は、うつ病の発症を通常の管理者よりも予見しやすかったということであり、むしろペナルティーを科されるべきとも考えられます。

・厚生労働省、医療界の責任
 私たちが最も問題と考えているのは、今回の民事訴訟ではまったく責任が追及されることのない厚労省の無策です。医師の判断力をも狂わせる過剰労働を放置してきたのは、厚生労働省です。その次に問題と考えているのは、労働法規を長年にわたって無視し、労働慣行を改めてこなかった医療界の指導的立場にいる方々の責任です。
 地域の基幹病院では、「最後の砦として」「患者のため」「地域医療を機能させるため」と、様々なストレスを勤務医の良心に訴えています。夜も寝られない宿直や夜間呼び出しの多い日常生活を勤務医に課し、勤務医を慢性的な疲労状態にさせている医療機関が少なくありません。また特に外科系診療科に於いては、自らのスキル向上のためには多数の手術を経験することが必要であることから、長時間労働を厭わず、上司の理不尽な要求をも受け入れざるを得ない、という構造的な問題があります。
 このような環境では弱音を吐くことも許されず、逃げ場を失い、際限のない長時間労働を強いられている個々の医師のストレスは過大となり、それが今回の判決で認定されたように、過労自殺を引き起こすだけでなく、上司のパワーハラスメントの温床となっていることは想像に難くありません。また、医師不足という背景から、パワーハラスメントを行う医師を病院側が処分、解雇できない状況もあります。また、ぎりぎりの人数で職場が回っている現状では、自身の心身の変調を感じとっても、専門医を受診すれば職場に穴をあけることになり、それすら躊躇われるのが、現在の医療現場です。

・勤務医の労働環境を改善するために何が必要か?
 これらの問題を解決し、勤務医の心身の健康を維持するためには、一病院当たりの勤務医数を増加し、交代制勤務導入による長時間勤務の是正と、duty free の時間を確保することが必要です。私たちは従前から、その実現の為には、急性期病院の集約化の他、主治医性を緩和すること、ある程度の需要抑制策を打ち出すことを提言しています。
 また、ギルド的要素が多い医師の世界に於いて、若手医師の教育環境では、特定上司が関与する時間が過度に長時間とならないように工夫する余地があると示唆されます。これも、基幹病院への医師や症例の集中と、医師の教育環境を均霑化していくことで、個人の資質に左右され難い教育環境を構築する必要性があると考えます。

・医師の長時間労働の改善は医師のためだけではなく、社会のため
 今回の判決では、長時間労働を放置する病院管理者や上司の民事責任が認定されました。医師の長時間労働の改善のためには、「現状では仕方がない」では実現しません。医療界を挙げて、大きな変革に取り組むべき問題です。また、医師の長時間労働は医療安全を大きく毀損します。その改善のためには様々な問題が表出しますが、持続可能で安全な医療提供体制を構築することが、医師個人のためだけでなく、国民にとって必要なことであると私たちは考えます。

・最後に
 この秋からまさに地域医療の病床再編が始まろうとしています。厚生労働省は先頭に立って、その必要性を国民に説明し、再編によって生じる患者側の利便性の低下や、医療現場の混乱を、患者様に受け入れて頂く努力をするべきと考えます。

平成26年11月4日
一般社団法人全国医師連盟 執行部

2015年03月24日 全国医師連盟

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