解説・オピニオン
[声明]東日本大震災後の医療体制に関して、全国医師連盟執行部の声明
医療崩壊が叫ばれる中、全国医師連盟は 2009 年8月に「持続可能な医療体制を実現するための全国医師連盟の五つの緊急提言」を発表しました。その後、昨年の診療報酬改定を経た現在、診療環境や医師の労務環境に目覚ましい改善は未だに認められていません。
本年3月 11 日に東日本大震災が発生し、診療体制が崩壊した被災地に、各地の病院、医療施設からの多大な支援があり、そして、今なお継続中です。しかし、これは、疲弊している全国の病医院に負担をかけており、今後も継続できることではありません。
その中で、社会保障改革に関する集中検討会議から社会保障改革案が6月2日に発表されました。消費税増税が、社会保障の継続のための唯一の解決策であるとする現政権に、強く反対いたします。現行の消費税の問題点、所得税、法人税のあり方を広く論議せず、不明な交付金や特別会計の問題点も先送りする姿勢には賛成できません。
また、改革案の医療政策に関してですが、公的病院勤務医の疲弊や、医療訴訟不安と医療事故への救済問題、死生観の変化に伴う終末期医療の問題点など、医療崩壊への正面からの解決を避けた姑息的なものとなっていることに、強く異議を申し出ます。これらを含め、現時点での全国医師連盟執行部の考え方を発表します。
1.被災地域の医療の再建は病院の集約化と介護の充実を実践する契機となる
今回の大震災で津波被害を受けた地域は医師が元々少ない地域であり、医療施設のみならず、介護施設も大きな被害を受けています。少ない医師数で、既存の病院を全て再建することは、劣悪な労務環境を作り、医師のさらなる離職を生じることが懸念されます。今後、防災上の観点から、居住困難地域などの指定を早急に行い、迅速に地域復興、移転、疎開を行い、新たな医療計画を早急に建てる必要があります。介護・医療制度に関しても、介護施設でのリハビリテーションの強化・看取り誘導、セラピストによるリハビリテーション事業所の設置など介護の機能を高めた形で地域の医療、介護の再建を行うことによって、医師不足の影響を緩和することができるのではないかと考えます。
2.医療、介護の従事者数の増加は歓迎する
これまでの厚生労働省の方針と異なり、今回の社会保障改革案では、高齢化社会への対応として、急性期病院と療養型病院の病床数を維持した上で介護施設の増加を打ち出したこと、そしてこれらの機能を強化するために、医療および介護従事者数を現状よりも約300万人増加する方針を打ち出したことは評価できます。また、GDPに占める医療介護費用を、現状の9.8%から2025年に13.7%に増加することを見込んでいます。しかし、従事者数の増加に関わる公費支出の増加は明示されていません。
3.前回改定に引き続き、診療報酬の増加は必要である
そこで、2012年度に予定されている医療介護報酬の同時改定に関して、雇用の促進を実現するために、医療、介護ともに報酬の増加が必要と考えます。特に介護の現場では、人件費の低さから職場の維持が困難になっており、これを改善しなければ、退院可能な患者さんの行き場は無く、医療の現場がさらに逼迫することは明らかです。
4.医療供給側の破綻を回避するため、急性期病院への何らかのアクセス制限は必要
現在の医療崩壊の主たる要因は、医療の需要と供給能力の圧倒的な不均衡に帰すと私達は考えています。今後、高齢者のさらなる増加により医療需要が増すことは明らかであり、この不均衡はますます大きくなります。特に、急性期医療には何らかのアクセス制限の導入が求められます。地域の診療所のゲートキーパー機能を強化支援することも求められています。現在、病院の再診料は、同日に複数科を受診しても単科分の請求しかできませんが、複数科受診ごとの技術料を課すことで病院から診療所へ外来機能を移転させる効果も出てきます。
5.実動医師数の確保と医師養成機能の強化を図る既存の大学医学部改革を
医師不足対策には診療(就労)環境の改善が不可欠です。そして、医師数を単に増やすこと以上に、医師の実動数を増やすことが重要と考えます。過労や訴訟不安を抱える現在の診療環境を放置したままでは、医学部の定員を増やしても、急性期医療や地域医療の担い手は増えません。これらを改善して、現場からの医師の減少(逃散)を防ぐ対策を講じるべきです。医学部入学者数は、2007年以降、16%増の1200人が既に増員されています。しかし、この医学部入学者数の増員に、既存の医学部の医師養成能力が十分に対応できない現状があります。大学医局の崩壊により、指導医が既に不足している大学もあります。既存の医師養成機関への支援・強化、大学医学部の統合を含めた医師養成能力強化こそが優先されるべきだと考えます。医師養成機関の間での競争は、より魅力的な医学部を作る上ではある程度必要であり、新設改廃を含めた一定の新陳代謝は必要と考えます。しかし、一旦増設された医学部を廃止することは難しく、将来の見直しを考えると、医師不足には、主として既存の医学部の定員増で対処すべきです。その際、大学教員の定数増も必要となりますが、医学部新設によって生じる地域の他の病院の医師不足よりは、影響の少ないものとなります。
6.地域の医療資源を有効活用するために、医療機関の分業化や連携を進めていく
近接した基幹病院と公的病院で重複した機能を持っているために勤務医が薄く配置され、非効率な診療環境の上に勤務時間が過長となり、持続不可能な状態を招いている地域も少なくありません。この問題に対しては、特に急性期病院の集約化を進めることで、専門医や患者さんを集中させ、効率的、効果的な治療を行うことができます。一診療科ごとの勤務医が増加することで交替制勤務を導入でき、勤務医の労務環境改善が見込めます。
病院間の分業化・再編を進めると共に、病院と診療所の病診連携も強化する必要もあります。一例として、診療点数を工夫して、開業医に病院の外来や検査室を解放することが出来れば、勤務医による病棟診療機能を高めることができると同時に、シームレスな病診連携を図れ、地域全体の医療資源を有効活用できます。
7.尊厳のある終末医療と介護施設での看取りの一般化
増加し続ける高齢者の診療・介護に関しては、改善の余地があります。現在の高齢者に対する医療は、人間の尊厳を必ずしも重視しておらず、また、医療の過剰な介入と考えられるものも少なくありません。健康寿命の延長と尊厳のある生命維持のために、医療従事者や家族はどうすべきなのか、社会的な論議を進める必要があります。そして、このような部分を改善するために、在宅医療への支援や介護施設のマンパワーの確保と介護職員への必要な教育研修の機会の提供を行い介護施設での看取りを一般化する条件を整備することが必要と考えます。
2011年06月12日 全国医師連盟


