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[ニュースリリース]「全医連提言2011」をニュースリリースしました

医療の質を担保しつつ持続可能な医療体制を実現するための4つの提言


一般社団法人全国医師連盟 代表理事 中島恒夫
   太田信次

 全国医師連盟は現在の医療提供体制の危機に際し「持続可能な医療体制を実現するための全国医師連盟の五つの緊急提言」を2009年8月に発表しました(「医療の安全確保と診療の継続に向けた医療関連死および健康被害の原因究明・再発防止等に関する試案」http://www.doctor2007.com/taian1.html)。しかし、2010年の診療報酬改定後も、診療環境や医師の労務環境に目覚ましい改善はみられず、臨床現場ではリスクマネージメント上も問題のある状況が続いています。
 2011年3月11日に東日本大震災が発生し、多くの被災地の医療体制が崩壊しました。被災直後から、各地の医療機関が現地を支援し、多くの医療従事者が被災者救済に尊い汗を流しました。しかし、支援した医療機関の多くが、その足下を見れば、自院のスタッフ増員もままならない状況であり、震災後の医療を取り巻く環境は、日本全国で益々厳しくなっているのが現状です。
 震災の復旧・復興が足踏みしている中、2011年6月2日に社会保障改革に関する集中検討会議から社会保障改革案が発表されました。この改革案は、現在の医療崩壊の主因である「医療の需給の正常化」に関し一定の方向性を示しましたが、病院勤務医の疲弊、医療訴訟不安と医療事故当事者への救済問題、死生観の変化に伴う終末期医療の問題点など、医療崩壊に対する正面からの解決を避けた姑息的な内容です。
 上記の情勢を鑑み、全国医師連盟の現時点での提言を以下に発表します。
(PDFファイルはこちらから)
全医連提言2011.pdf

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<骨子>
1.医療、介護は最低限の文化的生活を営むためのインフラである。今後の医療介護需要の急増による破綻を来たさないよう、医療・介護というインフラを整備することを公共事業とし、財政投入を優先させるべきである。
2.医療資源を有効活用するために、医療機関の集約化、グループ化、分業化、連携、病院と診療所の分業の明確化の推進(病院はER、救急医療、入院医療、精密検査に特化し、診療所は外来に特化する等)、患者の医療機関へのアクセス適正化が必要である。ただし、病院の集約化、再編は、各地域により手法は異なるべきである。
3.医療事故に対する無過失保障制度について、制度設計を適切に行う必要がある。WHOガイドラインの精神に基づき、無過失補償制度利用と民事訴訟との選択・分離や、医療事故か否かを判定する機関は、あらゆる権力からの独立性を担保すること、事故調査結果の行政処分への利用の抑制等が必要となる。
4.実動医師数の増員に繋がる医育機関の医師養成機能の強化と、既存の大学医学部を充実させる改革を図れ。

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<解説>
1.医療、介護は最低限の文化的生活を営むためのインフラであり、今後の医療介護需要の急増に備え、医療、介護の破綻を来たさないようインフラ整備の公共事業として財政投入を優先させるべきである。

 高齢者比率の増加により医療需要が増すことは、諸外国の例を見ても明らかです。将来、日本の医療の需要と供給能力の圧倒的な不均衡は、益々大きくなります。医療供給側の負担を軽減し、医療及び介護の破綻回避するためには、医療と介護トータルで見た需給バランスを考えるべきであり、入院医療だけでなく、在宅医療への支援や介護施設の人員増員と介護職員への必要な教育研修の機会の提供を行い、介護施設の充実を図る必要があります。
 急性期病院を中心とした勤務医の労働環境の問題は、過重労働に訴訟不安も相まって、勤務医の医療現場からの離脱(いわゆる"逃散")という悪循環を招き、改善の兆しは未だにみられません。また、介護施設では、介護職員処遇改善交付金等の施策が講じられたものの、人件費の低さから介護職員の充足が未だに難しく、運営に窮している施設が数多く存在します。 充実した医療を行うためには、医療から介護への一貫したスムーズな流れが必須であるにも関わらず、介護保険制度の瑕疵による介護側の受け入れ困難が、病院からの患者の退院を阻み、医療の停滞を招いている事態を看過できません。
 今後、高齢者が急速に増加する中で、医療介護従事者の労働環境が改善されなければ、圧倒的に増加する需要に見合うサービスを私達は提供できません。2012年度に予定されている医療・介護報酬の同時改定では、医療・介護関連業種での雇用を拡大し、医療・介護体制を維持する為に、そして、被災地の復旧・復興を後押しする為にも、前回以上の大幅な増額改訂が不可欠です。
 今回の社会保障改革案では、これまでの厚生労働省の方針と異なり、高齢化社会への対応として、急性期病院と療養型病院の病床数を維持した上で介護施設の増加を打ち出したこと、そしてこれらの機能を強化するために、医療および介護従事者数を現状よりも約300万人増加する方針を打ち出したことは評価に値します。一方で、GDPに占める医療介護費用を、現状の9.8%から2025年に13.7%に増加することを見込んでいるものの、従事者数の増加に関わる公費支出の増加は明示されていません。医療介護費用に関わる本人負担は、国際的に見ても現時点で高水準であり、医療介護難民の増加を防止するため、公費支出を増額する必要があります。
 また改革案では、消費税増税が社会保障の継続のための唯一の解決策であるとしていますが、これは非常に硬直した考えです。医療介護費用の国民の負担に関しては、消費税にこだわることなく、保険料や各種税のバランスを考えて改革すべきであると考えます。消費税増税以外にも、法人の社会福祉費用負担の国際水準並みへの強化(OECD"Reveneu Statistics 1965-2007"、OECD"National Accounts 1995-2006")、輸出に伴う戻し税の改廃、租税特別措置の改廃、所得税・相続税・相続税・贈与税の累進制の強化といった他の財源にも着目すべきでしょう。特に、診療報酬に関しては、消費"損税"の問題が既に存在しており、医療機関においては仕入れに付加される消費税分の転嫁が許されず、内部負担しなければならないことが、医療機関から医療継続に必要不可欠な投資資金を奪い取る形になっています。医療機関の損税以外にも現在の消費税の形式自体が多くの問題を抱えていることが指摘されており、現制度のまま安易に消費税増税を選択することは、遺憾の極みです。


2.医療資源を有効活用するために、医療機関の集約化、グループ化、分業化、連携、病院と診療所の分業の明確化の推進(病院はER、救急医療、入院医療、精密検査に特化し、診療所は外来に特化する等)、患者の医療機関へのアクセス適正化が必要である。ただし、病院の集約化、再編は、各地域により手法は異なるべきである。

 医療が本来の役割を果たす為に、重複した機能を持つ基幹病院や公的病院が近接している地域では、医療機関の集約化、グループ化、分業化、連携等を積極的に推進し、限られた医療資源を有効に活用することが必要です。また、病院の提供する医療の質を保持するために、病院は入院・検査といった高度医療に特化し、ERや入院受け入れ窓口等以外の外来機能を大幅に縮小し、外来機能は開業医に任せるといった役割分担の明確化と制度の変革が必要です。医療機関の集約化・グループ化、役割分担の明確化を進めることで、専門医や患者さんを適切な医療機関に誘導し、効率的、効果的な治療の展開が可能となります。基幹病院に於いては、一診療科ごとの勤務医が増加することで交替制勤務を導入が可能となり、勤務医の労務環境改善が見込めます。また、集約化により病院の高度化を図り、入院機能の充実が可能となります。
 病院間の分業化・再編の推進と併行して、地域の診療所のゲートキーパー機能の強化が必要になります。病院の再編に伴い、地域での診療所の役割は大きくなります。その為には、病院と診療所の病診連携も強化する必要があります。病診連携の強化により、開業医にとっても後方病床の確保が容易になり、よりシームレスな病診連携を行うことで、地域全体の医療資源を有効に活用することが可能になります。
 また、病院への外来患者の集中を制御する等の医療機関へのアクセスを適正化することで、救急対応・精密検査・入院管理等といった病院本来の機能の拡充に必要な医師の確保が容易となります。現在の病院当たりの勤務医師数では、24時間の時間外受診の患者を受け入れることは、物理的にも困難で、急性期病院の勤務医の多くは、病院で違法な長時間勤務を強いられています。時間外受診数が多ければ、それだけ多くの医師が必要になることは当然であり、少ない医師数で切り盛りする病院においては、患者のアクセスを適正化して時間外受診を減らさなければ、維持できません。医療機関へのアクセスを無制限のままにすることは、医療の安全を低下させ、勤務医の"逃散"に拍車を掛けます。現状を放置すれば、機能を維持できない病院が増え、最終的には地域の医療供給の破綻を招きます。
 しかしながら、現在の診療報酬制度は、アクセスの適正化とは逆行した制度設計になっています。病院の再診料は複数科受診時でも単科分しか請求できない、という不合理はその一例です。このような算定方法は、勤務医の診療技術が開業医よりも低く評価されているとも受け止られ、勤務医のモチベーションを下げます。また、診療単価の切り下げが、多くの病院の経営を圧迫する一因となっており、減収を補う為に一部の病院では、患者数によって収益を稼ぐという経営手法がとられ、そうした病院の勤務医を益々過重負担に陥れています。複数科受診毎に技術料を課すことに変更するだけでも、外来機能を病院から診療所への移す原動力となり、過重労働に苦しむ病院勤務医の外来業務負担を軽減する効果が期待できるので、十分検討に値すると考えられます。
 これまで指摘したように、病院の集約化とアクセスの適正化は制度設計上、避けられない状況です。一方で、地域病院の空白化という問題が懸念されます。こうした問題に対しては、先ず、病診連携・病病連携の活性化のために自治体の枠を越えたドクターヘリ網の確立や医療機関に繋がる交通網の充実等、効率的な患者搬送システムの構築等による対応が必要です。そうした対応をもってしても回避できない地域病院の空白化の問題に対しては、地理的条件によっては、その実情に合わせた、急性期病院の維持が選択肢となり得ることは当然で、後方病院までの距離、地域の人口などによって、集約再編の手法は工夫されるべきです。
 尚、病院集約化の際に、勤務医に対し過重な労働環境を求めれば、その病院は存続できなくなることを明記しておきます。移動時間が些少であれば、地域の病院をむやみに求めるのではなく、診療所や介護施設で補完することを、地域住民も考えるべきです。


3.医療事故に対する無過失保障制度については、制度設計を適切に行う必要がある。WHOガイドラインの精神に基づき、無過失補償制度利用と民事訴訟との選択・分離や、医療事故か否かを判定する機関はあらゆる権力からの独立性を担保すること、事故調査結果の行政処分への利用の抑制等が必要となる。

 昨今、政府が医療事故の救済を目指した無過失保障制度について検討する旨の報道があり、日本医師会からは事故調査に関する提言が発表されました(医療事故調査制度の創設に向けた基本的提言について http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20110713_2.pdf)。前回の提言で触れたように、医療事故被害者の救済、医療安全向上のための事故調査は必要であります。
 しかし、その制度設計に関しては外してはならない事項があります。無過失保障制度導入に関しては、民事訴訟や医道審査等との連動の問題が懸念されます。したがって、無過失補償制度利用と民事訴訟との選択・分離や、医療事故か否かを判定する機関はあらゆる権力からの独立性を保障されること、事故調査結果の行政処分への利用の抑制等が必要です。特に、事故調査については、本邦においては刑法211条(業務上過失致死罪)の規定が大きな障壁として存在しています。基本法である刑法改正のハードルは高いことから、刑事捜査との関係整理には十分な留意工夫が必要です。
 そもそも、「医療行為の不確実性」は議論の余地のない万国共通の認識です。そして如何に、不確実な部分を減らし、安全確保を行い、医療事故を減らすかということは、全ての医療従事者の永遠の課題とも言えます。実際、医療従事者は事故を減らすべく、インシデント発生を日々報告し、現場の関係者のみならず、厚労省、日本医療機能評価機能等の関係者が現場にフィードバックをするべく努力を行っています。こうした取り組みに於いて、報告の真実性が重要な役割を果たすことは、論を待つまでもない国際的な常識です。レポートの真実性を担保するために、2005年にWHO Draft Guidelines for Adverse Event Reporting and Learning Systems(URL:http://p.tl/EEnh)において、Non-punitive(不可罰性)、Confidential(秘密保持)、Independent(調査機関の独立性)、Expert analysis(専門家による分析)、Credible(内容の信頼性)、Timely(遅滞のない公表)、Systems-oriented(システムの欠陥を重視)、Responsive(改善指示の遵守)の担保が必要であると指摘されています。医療事故調査においては、この指摘を最大限尊重した制度設計が必要です。世界標準に準拠した医療安全確保の手法の選択は、医学・医療を維持・発展させるためには必要です。そのためには、無過失保障制度、事故調査制度、医療従事者のみならず国民への医療安全に対する教育、事故調査結果を医療を取り巻く各種の制度設計に活かす仕組みも必要となります。
 尚、WHO Draft Guidelines for Adverse Event Reporting and Learning Systemsの理念を本邦で具現化する案として、全国医師連盟は以下の試案を発表しています(「医療の安全確保と診療の継続に向けた医療関連死および健康被害の原因究明・再発防止等に関する試案」http://www.doctor2007.com/taian1.html)。


4.実動医師数の増員に繋がる医育機関の医師養成機能の強化と既存の大学医学部充実と改革を図れ。

 医師需給バランスで圧倒的な供給不足が続く状況下では、医療の供給能力を改善する為に、診療(就労)環境の改善が不可欠です。その為には、医師数を単に増やすこと以上に、医師の実動数を増やすことが重要です。過労や訴訟不安を抱える現在の診療環境を放置したままでは、医学部の定員を増やしても急性期医療や地域医療の担い手は増えず、医育機関や医学部における指導医の充実を図れません。先ず、これらを改善し、現場からの医師の"逃散"を防ぐ対策を講じるべきです。
 医学部入学者数は、2007年以降、16%増にあたる1200人が既に増員されています。しかし、この医学部入学者数の増員に、既存の医学部の医師養成能力が十分に対応できていません。医局制度の崩壊により、指導医が既に不足している大学もあり、既存の大学医学部をはじめとする医師養成機関への支援・強化と、大学医学部の統合を含めた医師養成能力強化こそが優先されるべきです。医師養成機関の間での競争は、より魅力的な医学部を作る上では必要なことです。新設改廃を含めた一定の新陳代謝の必要性は認めますが、指導医定着が難しい状況の下で、医学部・メディカルスクールの新設さえすれば良いという安易な考え方には賛成できません。
 医学部・メディカルスクールの新設には莫大な投資が必要であり、一定の成果を上げている既存の医学部を窮地に追い込んでまで行う必然性はありません。将来の人口動態予測を考慮しながら、主として既存の医学部の定員増減で医師需給バランスを図るのが正攻法の対処法であると考えます。医学部増員を図れば大学教員の定数増も必要となり、医療圏内の市中病院において医師数減少の影響を与えることが予想されますが、医学部・メディカルスクール新設による影響よりは遙かに小さいものとなるでしょう。

<参考文献>
医療の安全確保と診療の継続に向けた医療関連死および健康被害の原因究明・再発防止等に関する試案
http://www.doctor2007.com/taian1.html

OECD"Reveneu Statistics 1965-2007"、OECD"National Accounts 1995-2006"

医療事故調査制度の創設に向けた基本的提言について
http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20110713_2.pdf

WHO Draft Guidelines for Adverse Event Reporting and Learning Systems
http://p.tl/EEnh

2011年12月20日 全国医師連盟

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